彼はいつでも誇り高く美しかった。
その幼い瞳は俺を見ていることはない、あくまで叔父を見る瞳だった。
高貴で純真無垢な薔薇、誰の手垢もついてない美しい宝石
だから――

「やッ、だめぇっあぁッ!」
「何がダメなんだ?こんなに気持ちよさそうに咥えこんでるじゃないか」
「はいってこないでぇっ!」

それは彼の心なのか、身体なのか
ずぷずぷと処女地を荒らしていくと彼は背中をしならせながら泣き叫んだ。

「よかったなヴィーナ、これで家督はお前のものだ」
「うぅ…いやぁ……!」

高貴な身分のはずなのに、同じ男のはずなのに、抑えつけられ卑怯な駆け引きに身を売った自分が許せないのだろう。
決して俺の前で泣くことなどなかった彼は今では声を上げて泣いている。

ヴィレイナ・オールストンという名前の14歳の美しい少年、伯爵家の跡継ぎにして俺の甥。無残で惨めな散らされた薔薇の花。
彼が俺を憎むならそれは計画通りだ。一生この少年にはこの屈辱の日の思い出、自分の処女を無理矢理散らした男への憎しみがの残るだろう。

腰を動かし始めるとヴィーナはひいひいと泣きながら喘いでいた。思った通り淫乱な身体だ。
奥のしこりをえぐってやると簡単に達してしまう。今度はわざと浅い所ばかり突くと無自覚に腰を揺らす。
それを指摘すると「抜いてぇっ、やぁッ!」なんて言いながら逃げようとするけど箱入育ちの非力な少年は当然俺に敵わなかった。
熱く締め付けてくる体内は女の膣より貪欲でまるで男の精を搾り取るための場所のようである。すでに何回も達して出すものがもうないヴィーナは苦しそうに身を悶えさせた。
しかしそんなことおかまいなしにナカをえぐって無理矢理な快感を味合わせるとナカが酷く痙攣してヴィーナは失神した。いつもお綺麗にすましている顔は淫らに汚れていて大変良い。
その晩、俺は力の抜けた少年の身体が壊れる寸前まで犯したのだ。

                         ▼

「…朝…」
無機質なアラームで目が覚める。
ピピピという音はいささか美しくなくて今度はもっと心地のいい音楽でも流すアラームをつけようと誓ったのだ。
カーテンから覗く朝日をみると嫌でも今日が来てしまったのがわかる。
1月11日、俺の誕生日兼思いだしたくない屈辱の日。
何か嫌な夢を見ていた気がするがこんな日だからしょうがないだろう。のそのそとベットから抜け出し乱れたローブ姿でシャワーに向かう。
生暖かいお湯をあびると次第に目が覚めてくる。

「…最悪な日!」

ゴン、と壁を殴りつけたが手が痛いだけだった。
虚しくなってシャワーをやめ新しいバスローブを着てびしょびしょのままベットに寝転ぶ。
胃が痛い、なぜ18の誕生日にこんな思いをしなくてはならないのだ。
悶々と鬱鬱としながらベットに寝転んでいると――

「ヴィレイナ様、朝ですよ」

俺の側仕えのオルトが来た。
ベットにびしょ濡れで寝転ぶ俺を眉を顰めながら見たものも何も言わずカーテンを開ける。
蒸らした朝の紅茶と好物の甘味も渡してきた。いつもなら紅茶だけなのに朝からこんな不健康が許されるとはオルトも優しさを持ってるらしい。
のそのそと紅茶と甘味を口に運ぶ俺を見てため息をつきながら今日の予定を読み上げる。

「午前中は王宮で謁見のち陛下主催のお茶会、午後は夜会の準備ですね…6時から始まりますので休憩はお早めにお取りください。そして10時に――」
「その先をいったらお前を監獄送りにするからな」
「…困った主ですね」

オルトはぱたんと手帳を閉じる。
夜の10時、俺はまた屈辱的な時間を過ごす。毎年の契約で尊厳もなにもかも奪われただの非力な男になってしまう。
それをオルトも知っていて朝から甘味を持ってくるような優しさをみせるのだ。

深く、眠りについて何も考えたくない。


王宮の用事も終わり、家に帰ってきた俺は衣装合わせの最中だった。最近食べれてない俺は予想通り少しやせてしまってオルトに怒られてしまう。

「淑女の皆様方は俺を白馬の王子様と呼んでいるらしいぞ?なら脂肪は必要ない」
「馬鹿なこと言ってないでしっかり食べてください。腰が細すぎです」

そんなに、細いだろうか
自分では毎日見てる身体だからよくわからない。
シャツを少し調整してもらい衣装室から俺は出た。
昼の三時、悪魔の時間まであと7時間。自殺しそうだ。

オルトを連れ自室に戻った俺は少し仮眠を取ろうとベットに横になった。
うとうととてきてあと少しで眠れそうだというところでノックの音に目が覚める。

「オルトさん、ヴィレイナ様に贈り物が」
「…贈り物はすべて一室にまとめるはずですが」
「それが――」

苛立ったオルトと怯えた若いメイドの声を微睡の中で聞いていた。
二人はしばらく話した後オルトが荷物を受け取ってメイドは去っていく。
よほど身分の高い人から来たのだろうか、陛下からのプレゼントは午前中に頂いたが…

「貴方はお聞きしたくない名前でしょうが、アーサー様からの祝いの品が届きました」
「…最悪」

アーサー、俺の叔父で俺を汚して堕落させた男。
のそりと起き上がった俺の前に真っ白な箱に青いリボンが結ばれた箱を渡される。
いますぐにでも焼却処分したいが、もしかして今夜来れないとかの知らせが入ってる可能性もある。淡い期待を抱きながら箱を開けるが――

「…ヴィレイナ様、お気をしっかりお持ちください」

そこにはいてったのは所謂卑猥なおもちゃ、男性器を模った黒い物体。
俺が見たあの男のものよりかは数周り小さいが、なぜこんなものを送ってきたのか
そして添えられていた青いカードと薄桃色の液体が入った小瓶、カードを開く。

『愛しのヴィーナ、今夜はそれを身に着けてワルツを踊ってくれ』

カードをくしゃくしゃにして投げ捨てた俺の肩をオルトは守るように抱いた。
…身体が震えていた
恐怖だろうか、それとも怒りか。
ただ、あの男を殺したい。


「ヴィレイナ様、お誕生日おめでとうございます」
これで何人目かわからない、愛想笑いを浮かべ「ありがとうございます」と述べる。
「ヴィレイナ様、お顔が赤いようですがどうなさいました?」
一人の淑女がそう言った。
瞬間身体を強張らせてしまい後ろに咥えている卑猥なものを締め付けてしまう。砕けそうになる腰を必死で支えながら「いえ、大丈夫ですよ」と言う。
…全然大丈夫じゃない。
あの贈り物を受け取ってから寝込んだ俺を起こしたのはオルトだった。
彼は「夜会を潰すこともできますが、それではアーサー様は納得しないでしょうね」ともっともな正論を言う。その通りだ、この命令に逆らったらこの数倍の恥辱を味合わせられる。
道はもうないのに黙り込んだ俺に「お手伝いします」と言いこの玩具を突っ込んだできる側仕えは無表情だった。…わかってるのだ、主人がこんな目に合ってるのに何もできない彼の辛さなど。
だが、限界だった。
歩くたびに腰は砕けそうになりイってしまいそうになる。
顔もきっと真っ赤で声も震えているだろう。あらぬところが疼いてはやく熱くて太いもので貫いてほしくてどうしようもなく、カードに書かれたワルツを踊ることは不可能だ。
もうリタイアしよう、これ以上に恥辱を味あわされてもいい、ただ今はもう無理。
俺がオルトを呼ぼうとすると、入口の方で騒ぎが起こっていた。
ああもうなんでこんなときに…熱に浮かされた身体を引きずりながらその場所に向かうと――

「ヴィーナ、相変わらず麗しいな」
「…アーサー」

憎き男がいた。


                       ▼

俺はその後アーサーを引きずるように会場から出ていき空いている客室になだれ込んだ。
もう、限界だ。

「どうしたんだいヴィーナ、発情しきった雌の様な顔をして」
「…わかってるでしょう!」

俺を言葉でいたぶるのが大好きなアーサーは変わっていなかった。

「せっかくの誕生日に俺を所望してくれとは光栄だな」
「誰がアンタなんか――!」
「なら俺は会場に戻らさせてもらう。酒が飲みたい」

そうして去っていこうとするアーサーの手を掴む。
気づいたときにはそんなことをしてしまってて、急いで離すが後の祭りだ。
アーサーは楽しそうな獲物を食べる前の肉食動物の様だ。

「そんなに飢えているのか、身体が疼くならお前の取り巻きの淑女でも呼んでこようか?」

女性じゃこの疼きはどうしようもない、そんなことわかってるはずなのにアーサーは俺が膝を折るまでやめないらしい。

「なんて言えばアンタは俺を…」
「お前の処女を散らした日にたっぷり教え込んだはずだが?」

幼くてなにもわからなかった俺を犯した男は厭らしく笑った。
殺したくてたまらない。
しばらく俺とアーサーは睨みあっていて、負けたのは俺だった。

「…アーサー、俺に御慈悲をください…貴方に、孕まされたい…」

「いいだろう、たっぷり孕ませてやる」

悪魔は満足そうに笑った。

                       ▼

「相変わらずここが弱いなぁ」
「ひィッ、あぁッ、あッ、あぁ――!」
「またイったのか、こんな感じやすくて大丈夫なのか?」

アーサーは達したばかりの俺の身体を乱暴に揺さぶる。やめて待ってという言葉など聞いてはくれず頭がおかしくなりそうな快感に身を投じる。

「俺はお前に年に一回しか会えない…毎日でも種付けしてやりたいのに」
「ぁッ、はぁんッ、やッ、やぁッ!」
「こんな貪欲な身体、放っておいたら可哀想だ」

なにを勝手なことを
ぐりぐりとナカを犯される。俺は嬌声を上げながら半場理性を飛ばしている。

「ッ…!」
「あぁぁッ、いやッ…あッ、あ…!」
「溢すなよ」

男に、また汚されてしまった。
言われた通りナカに出された精液をこぼすまいと力を入れるとそれを嘲笑うかのようにアーサーは臀部を揉んだ。
獣のような体勢で犯されていた俺の痴態はアーサーに丸見えだった。
ずるりと抜かれた男のモノに安堵するのも束の間。

「18歳の甥っ子には特別なプレゼントだ…おいオルト、いるんだろう、お前のご主人様がお呼びだぞ!」

部屋の外で見張っているであろうオルトを呼ぶアーサーをとめるには少し遅かった。
壊れるぐらいの勢いで扉が開きオルトが入ってくる。

「…ヴィレイナ様、お呼びでしょうか」
「オルト、はやくご主人様のナカから精液を掻きだしてやってくれ。腹が苦しいっていうんだ」
「そんなこと――!」
「――失礼します」

ベットからどいたアーサーに代わって覆いかぶさったのはオルトの影だった。
こんな臀部を突き出してる恰好をオルトに見られた恥ずかしさで頭がショートしそうになる。

「やらなくていい――!?」
「…緩めてくださりませんか?」

無遠慮に指いれてきたオルトは無表情だ。
逃げようとするが身体は疲労でまったく動かない。

「こらこらオルト、ヴィーナはイったばかりで敏感になってるんだ。優しくしてやれ」

アーサーの茶々にオルトの指は余計激しくなった。
ぐちゃぐちゃと精液をかき回す指先はどうかんがえても普通じゃない。
だけど、普通じゃないのは俺もだ。

「どうしましたヴィレイナ様、こんなに腫らして…」
「さわるなぁッ!」

幼いころから信頼して兄弟の様に育ってきた側仕えに、秘所を曝け出して指までいられてる。そんな異常な状況に興奮していた。
すっかり大きくなっている前も愛撫されて拒否したいのに拒否できない。罪悪感と快楽の間で揺れている俺を見透かしたようにオルトは言った。

「いいんですよ、貴方は叔父に手篭にされた可哀想な子供だ...本当の貴方はこんなことをされて乱れたしない、あの男が全部悪いんです」

その熱の篭った言葉に、あの男ことアーサーは喉を鳴らして笑い俺は呆然とした。

「...奥に入ってしまってますね、なかなか掻き出せない」

黙り込んだ俺を無視してオルトは憎らしい白濁を一気にかき出した。だが奥にまだ残ってるらしい。

「ヴィーナ、あの芸を見せてあげたらどうだ?」
「...芸?」

突然喋ったアーサーに陰のある声でオルトが疑問を投げかけた。
俺も心当たりがなく戸惑っているとーー

「16歳の誕生日に教えただろう?水を入れ、ナカを掻き回してーー」
「や、やらない!!」

思い出した、最悪すぎて記憶の奥底にしまっといたのだ。
逃げようと動いた俺のナカからオルトの指が抜けた。
だがすぐまたオルトの手が腰に回る。

「ヴィレイナ様、芸とは...?」
「言えるものか...あぁっ!?」

俺のモノを強く握ったオルト。痛みで動けなくなった俺の耳元でオルトは囁いた。

「このままじゃヴィレイナ様の大切なところが精液臭いままですよ?ほかの男に叔父の一物をくわえ込ん出ることが知られてしまいます」
「そんなことーー!」
「ヴィレイナ様はお気づきになられてませんが、そのことに感づいてるほかの男どもが時折貴方様を厭らしい目で見てます。やっぱり匂うのですよ、男に犯されていることが」
「うぅ...」

腰を摩る手は股の間に伸びていく。
俺はオルトに言われたことがショックで寝込みそうだ。
泣きそうになっている俺の耳に冷蔵庫を開ける音が聞こえた。
そしてーー

「いいものがあったぞヴィーナ、これで風呂に行かなくて済む」

水が入ったペットボトルをアーサーが厭らしい笑顔で持っていた。あの芸をやり方を知ってる俺は体が震えてしまう。

「アーサー様、芸とはヴィレイナ様の身体に傷をつけるものではありませんよね?」
「もちろん、ただ水をたっぷりナカに入れてやってぐちゃぐちゃに突いてやるだけだ。」
「へぇ...随分なご趣味だ」

そういいながらもオルトは楽しそうに笑っていた。
あの芸は辛いのだ、アーサーは苦しいやめてといっても面白がるだけだし恥ずかしい言葉で懇願しないと抜いてくれない。抜いたところでその場で水を排泄することを強要される。
だが乗り気な男2人に敵うはずもなく俺はまたひっくり返され尻を突き出させられた。
ペットボトルの蓋を開け水を少し垂らされる。その冷たさに恐怖を煽られるが逃げれない。
ペットボトルの無機質な先端がグイと入れられて傾けられた。

「あっ、いやぁっ、あああ!」
「腹が膨らんできたぞ」
「落ち着いてくださいヴィレイナ様」

錯乱状態の俺を押さえつけるオルトと水を入れるアーサー
冷たくてお腹が破裂しそうな量を入れられ悲鳴しか上がらない。

「このぐらいかな、これ以上やると壊れてしまう」
「可愛らしい様子ですね」

満足気なアーサー。そして俺のお腹を撫でるオルト

「じゃあさっそく甥っ子の芸のために叔父も頑張るか」
「ひゃぁ!!」
「変な感じだな」
「ヴィレイナ様、少しの辛抱ですよ」

もう破裂しそうなお腹の中をアーサーのモノが犯す。
嫌な水音と肌がぶつかる音、前に来て俺の頭を撫でているオルトにしがみついて「やめさせて」と拙く懇願するが困った様にオルトは笑うだけだった。
永遠にも思える時間が過ぎる、アーサーは抜いてくれない。

「あ、アーサー、やめっ、抜いて!」
「すっかり萎えてるな」

当然だ、こんなの気持ちのいいわけがない。

「この芸で快感を得られるようにすることを20歳までの目標にしようか?」
「いいですね」
「なんなら毎日オルトにやってもらえばいい、2年間も躾ればどんな苦痛も快感に変えるだろう」
「うっ、うぁ、あっ、ひぃぁ!」

そんなの悪夢だ
だがこの悪夢は止められる、俺次第で

「可哀想なヴィレイナ様、このままでは腸が破裂してしまう」
「まともな生活が送れなくなったら俺が世話を見るから安心しろ」

恐怖を煽る言葉に俺はもうだめだった。
オルトの服にしがみつきながらアーサーに懇願する。

「アーサーぁ、おねがい...俺に排泄させて...」
「おや甥っ子はそんな趣味があったのかな?」
「お、俺はアーサーとオルトに恥ずかしいところを沢山見られて感じちゃうから、お願い...!」
「へぇ、たとえばどんなところ?」
「その、あの...前をいじられて喘いだり後ろの孔を責められて泣いたりしてるところ...」
「及第点だな」

そんな
アーサーは抜いてくれず緩やかに腰を動かす。
狂いそうな俺は必死で頼み込む。

「お願いっ、もうだめっ、変なところに入ってきちゃう...!」
「良かったじゃないか、これで綺麗になったな」
「違うっ、このままじゃ、俺...!」
「どうした?」
「...アーサーとセックス出来なくなっちゃう...」
「...馬鹿な子だ」

何がアーサーの琴線に触れたかはわからない。とにかくまくし立てた言葉にアーサーは自身のものを抜いた。
瞬間、音を立ててナカから水が溢れてくる。

「あ、あ、あぁ...!」
「まるで潮を吹いてるみたいだな」
「...ええ、とっても厭らしいですね」

ぷしゅぷしゅと最後まで出し切った俺はぐったりと倒れ込んだ。
身体中冷たくて重い、何も考えたくない。

「ーーさて、今年の契約も守られたワケだが...それとは別にヴィーナ、なにか欲しいものは?」
「......。」

何も喋る気になれない。うつろな瞳で窓の外の月明かりを見る。

「18の誕生日だ、叔父さんがなにか買ってやろう」
「...ヴィレイナ様はお疲れのようですね」

頭をオルトに撫でられる。
とにかく寒いし身体が重い。

「アーサー様、もうご要件がお済みでしたらヴィレイナ様を浴場に連れていっても?」
「私が連れていこう」

力が抜けきった俺の身体をアーサーが抱き上げた。

浴場に連れていかれ常時満たしている湯船にすぐさま入れられる。
ふわりと薔薇の香りがして目を開けると湯船に花びらが浮かべられていた。

「おい、そんな女みたいなものを浮かべるな」
「ヴィレイナ様は好きなんですよ」
「嘘だろ」
「...好き」

背中から俺を抱きかかえているアーサーの首元に鼻を擦り付けるようなマネをしてしまったのは一生の不覚だ。

「...じゃあ誕生日プレゼントは薔薇園だな」
「...いらない」

温められて意識が戻ってきた俺は眠気の中否定した。

「アンタなんかから貰っても嬉しくないし本当に欲しいものじゃない...」
「なら何が欲しいんだ、俺ならなんでも与えられる」
「..アンタには無理、俺は家族が欲しいんだから」

眠い、もう限界だ。
後のことは全て忘れて眠りについた俺にはその後のアーサーの言葉は聞こえなかった。




「望めば俺がヴィーナの家族になるのに」
「...アーサー様」
「怒るなよ」

彼はすっかり眠ってしまった。年相応のあどけない寝顔だ。
彼には家族がいない、母親はヴィーナを生んですぐさま死に父親は14のころ事故死した。突然家督を継ぐことになったヴィーナには後継人も味方もいない、野心に溢れた俺に家を乗っ取られたのは当然だった。だが彼は伯爵家の当主となるべく育てられたのだ、そんな状況に甘んじているわけにはいかない。しかし箱入りのガキと無駄に歳を食ってる俺とでは勝負は目に見えてた。結果、「何でもするから家を返してくれ」と言うヴィーナに最悪の取引を持ち出した。「毎年誕生日の日に俺に抱かれろ」という最悪の取引を。

「ああ、唇に傷が出来てる。なにか塗るものを取ってくれ」

彼の男にしては赤い唇には噛んだ痕があった。
まだ味わったことのないそこは魅力的だが今は痛々しい。

「...ヴィレイナ様はこちらの二種類を使っているので、順番を間違えず塗ってください」
「面倒臭い」

といいながらも二種類の軟膏を塗ってやる。
ふにふにとした触り心地は毎日手入れしてやらなくてはいけない、という気分にさせた。

「ーーところでオルト、お前は俺を殺したくならないのか?」
「ヴィレイナ様が悲しみますから」

それはヴィーナさえよければ殺すということだろう。
だがーー

「ヴィーナは俺に死んでほしいと思ってると思うがな」
「それでもお優しいヴィレイナ様はどこかで傷つくのですよ...まあヴィレイナ様に惚れているアーサー様が死んでしまったらいざと言う時の楯を失う、という理由もありますがね」

はははと笑う性悪。
認めよう、俺は彼に惚れている。
悲しいぐらい虚しくて我儘な片思いだ。

「それよりヴィーナにちゃんと食べさせろ、腰が細すぎて俺の子を産めん」
「さりげなくセクハラ発言をしないでくれます?...まあそこはヴィレイナ様にしっかり言っておきます」
「言うだけじゃだめだ、食べなければ下の口から食べさせろ」

なんて俺の戯言を無視してオルトは「ごゆっくり」といいながら浴室を去っていった。
あいつもヴィーナのことが好きなくせに俺みたいな男と二人きりにする、意味がわからん。

「まだ、冷えてるな」

「ん...」

無理やりなプレイに酷使された身体はいつもより冷たい。
体をさすってやるとヴィーナは少し呻いてうっすら目を開けた。

「...ヴィーナ、愛してる」

きっと意識はほとんどないヴィーナは言われてることなど全くわからないはずなのに、柔らかく微笑んで再び眠りに落ちた。
恥ずかしすぎる愛の告白。
一生触れることを許されないであろう唇に思いを馳せ頬にキスをした。

高貴で純真無垢な薔薇、誰の手垢もついてない美しい宝石
だから――

愛してしまう。
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